灼熱カバディはいいぞ。
インド発祥のスポーツであるカバディという競技で日本の高校生たちが全国一を目指すっていう漫画がありまして、これめちゃめちゃ面白いです。ぼくは大学生のときに読んで死ぬほどハマってました(作者の武蔵野 創 先生はマジで天才だと思います)。
最初にあらすじを軽くご紹介。
主人公の宵越 達也(よいごし たつや)は、若干15歳でプロになれるほど実力のあるサッカー選手だったにも関わらず、高校入学を機にサッカーを辞めてスポーツそのものから離れようとしていた。
しかし、その評判を聞いたカバディ部の部員から勧誘され、勝てばネットでの自分のファン数が増えるが、負ければ現実でカバディ部入部が決まるミニゲームに参加。
しかし、負ける要素がないと思っていたその勝負で負けてしまい、カバディ部の部員として活動することになって……
というお話。
何が面白いか
この灼熱カバディって漫画めちゃくちゃ好きなんですけど、具体的になにが好きかって『敗者の美学』を描いているところなんですよ!
カバディとかいう、ネットとかでよくネタにされてる圧倒的に知名度が低いマイナースポーツ。
「カバディ、カバディ」と連呼して走り回るよく分からない競技。
そういうイメージが現実の日本でもあると思うんですけど、もうこのコンセプトだけで敗者のストーリーが出来上がってるんですよね。
作中に登場するモブキャラからも「カバディとか超ダセえ笑」とか「何でサッカーで頂点とってないのにやめてんの?」みたいなぐあいに馬鹿にされてるんですけど、こんな風に「カバディをやってる奴ら(=主人公たち)」がそのまま「負け組」みたいに捉えられる世界になってるんです。
そんな世界で、まわりから負け組みたいに思われてる主人公たちがカバディという競技で本気で日本一を目指すという……。
これですよ笑
「どん底からの逆転劇」と同じ構図なんです。
だからコンセプトの時点でもう面白い。
で、さらにその上で、ひとつひとつの試合で負けた人間を描いてるから面白さが二重になってるんです笑
スポーツ漫画なのでもちろん他校と試合する展開がたくさんあるんですけど、序盤は主人公たちのチームはほとんど勝てないんですよ。経験が足りないし、ルールもまだ覚えたてだから。だけど、試合に負けたときのキャラクターの思考をすごく丁寧に描かれている。
「競争に負けて自分のみならず仲間たちの顔に泥を塗った」
「恥ずかしい、悔しい、面白くない」
そういうときに、どうするのか?
負けた言い訳をするのか?
冷静に自身の弱みを分析するのか?
それとも現実を見て、スポーツという世界そのものから降りるのか?
『勝負に負けて恥ずかしい思いをしているときに、どういう姿勢をとれば良いのか?』
気分も状況も最悪という局面でどうすればかっこよくいられるかという「敗者の美学」が描かれてる作品なんですよ、この漫画は!!笑
個人的には外園(ほかぞの)っていうキャラクターが一番好きですね笑
このキャラ、漫画の最終地点である全国大会にて主人公チームが一回戦で当たる相手なんですけど、流れ的にどう考えても負けるの分かってるじゃないですか笑
全国大会の一回戦なんて主人公たちが勝つ展開に決まってる。で、実際にそうなる。
なのに一番印象に残ってるんですよ。
ただでさえカバディというマイナーで注目度も低いスポーツで本気でやってきて、試合に負けた瞬間に涙流してしまうくらい悔しがってる姿を描かれてですね(その演出の仕方もすさまじいんですけど)、とにかくその1ページで何十秒も目が止まったんですよ。
あとから読み返してもその1ページをじっと眺めてたりしながら「注目度の低いマイナースポーツの世界で、こんな悔しがれるほど本気になれる人って現実にどれくらいいるだろう」って思ってしまったんですよねぇ。
しかも、その後もめちゃくちゃかっこよくて笑
この外園(ほかぞの)ってキャラ、試合に負けた直後に主人公たちを応援しに来るんですよ!?
「博麗は強かったと、証明できるのは君たちだけだ」って言って、主人公たちに優勝するように頼み込んでくるんすよ!
自分たちに敗北を与え、屈辱を与え、カバディを続ける道を閉ざしたような相手に向かって堂々と激励の言葉を贈るって、そんなのなかなかできないじゃないですか!笑
最初のほうとか絶対噛ませ犬みたいなキャラクターだと思ってたのに!笑
しかもこれくらい魅力的なキャラクターが他にもたっぷり出てくるんすよ!?
こんなん面白いに決まってるじゃないですか!
あと、これも書いておきたい。
カバディという競技を分かりやすく解説するための手法がエグい。
何がどうエグいって、競技の特色を分かりやすく説明することと、ストーリーとして面白くすることを両方同時に達成してるところなんですよ。
この漫画って『別のスポーツをやっていた人物がカバディに転入してきてる』って設定を多用しててですね、これがめちゃくちゃ分かりやすい。
例えば、水泳で全国一位を獲得していたキャラクターがライバルとして主人公の前に立ちはだかるんですけど、このキャラの強みって「息継ぎなしで激しい運動を続けられる」「水中でもまわりの音が聞こえるくらい鋭い聴覚」といった点にあるんです。
カバディって、選手が「カバディカバディ」って連呼してるじゃないですか。
あれって「カバディと唱え続けている間だけ敵に攻撃できる」っていう公式ルールがあるからなんです。
だから、息を止めていられる時間がそのまま攻撃を続けられる時間になる。
そのことが水泳をやっていたキャラクターが出てきたあたりから判明するので「あ、こういうところで恐ろしく強いのか……こいつやべえな……」って明確に分かる。
さらに例を挙げると、元バレエ選手というキャラクターがいるんです。
これの強いところは「体が柔らかい」ことなんです。
基本ルールとしてカバディでは、敵にタッチして自分の陣地に戻った時点で点が入るんですよ。
それを防ぐために防御側が相手を引きずり倒したりするんですけど、この元バレエ選手の場合、倒されても柔らかい体をタコみたいに伸ばして無理やり帰陣できる。だから、得点力が異様に高い。
主人公の宵越 達也はもともとプロレベルのサッカー選手だったって設定なんですけど、その宵越も、「サッカーで培った力をどうやってカバディに落とし込むか」で試行錯誤する場面がある。そして、主人公だけにしか使えない技みたいなのを獲得して唯一無二のカバディ選手として敵味方に認められていく。
分かりますか?
「メジャースポーツのどういう部分がカバディで使えるか」を徹底的に掘り下げてるんです。
たとえどれだけカバディを知らなくても、サッカーとか、水泳とか、そういうメジャーな競技のルールはみんな知ってるじゃないですか。
そこを入り口にしてカバディという競技が説明されてるんです。
誰でも知ってるスポーツを通して、誰も知らないカバディというスポーツを説明しようとしてる。
マジで天才すぎる。
だって、この手法によってカバディというスポーツを分かりやすく説明するだけにとどまらず、キャラ付けも完璧にできてしまう。
このキャラクターはこういうところが優れているってわかりやすいし、元水泳選手だったら「水泳のキャラ」って覚えやすいじゃないですか。そいつと試合するときにどういうところで苦戦するかっていうのも描かれるので、他のキャラとイメージが被りにくい。
キャラクター同士の差別化が完璧にできて、なおかつカバディという競技への理解度も増す。まさに一石二鳥の手法なんですよ。
普通だったらマイナースポーツを描くときって「こういうルールがあって、こういう場合は得点が~」みたいにゼロから説明してしまいそうなのに、それを他競技のキャラクターを登場させることで別角度からも説明するっていうのをやってのけててですね、すごいなあって思いました(語彙力笑)
ここまで効率的かつスピーディーに話を進められる手法があるんだと感動した覚えがあります。
もちろん、これ以外にもハマった要因はたくさんあります。
画力がすさまじいとか、ギャグが面白いとか、etc……。
なのでこの記事を読んでる人、今すぐ灼熱カバディを読んでみてほしい。
マンガワンってアプリで無料で読めるので、ぜひこの機会に!